100年以上愛される物語に学ぶ ~読者が見たい場面を、あえて隠す方法
こんにちは。ぴこ山ぴこ蔵です。
O・ヘンリ『アイキイの惚れ薬』を題材に、物語の構成技術を読み解くシリーズも、今回が完結編です。
第1回では、恋敵を陥れるはずだった睡眠薬が、人を救う切り札へ変わる仕組みを取り上げました。
第2回では、主人公の選択の変化が、小道具の役割と結末を動かす構造を考えました。
今回注目するのは、
この物語を、誰の目を通して語るか
という問題です。
駆け落ちの主役が、語り手ではない
『アイキイの惚れ薬』で駆け落ちを実行するのは、マッゴーワンです。
彼は恋人と逃げるために惚れ薬を手に入れ、土壇場で考えを変え、最後には駆け落ちを成功させます。
物語の中心で行動しているのは、明らかにマッゴーワンです。
ところがO・ヘンリは、彼を視点人物には選びませんでした。
物語を語るのは、恋敵を陥れようとする薬剤師アイキイです。
なぜ、駆け落ちをする青年ではなく、悪だくみを仕掛けた人物の視点を選んだのでしょうか。
読者だけが、罠の存在を知っている
アイキイの視点で物語を描くと、読者には悪だくみの全貌が見えます。
惚れ薬の正体が睡眠薬であること。
アイキイが駆け落ちの計画を密告したこと。
ロージィの父親が、銃を持って裏庭で待ち伏せしていること。
しかし、マッゴーワンは何も知りません。
読者は、危険な罠へ向かっている人物を見ながら、
「その薬は偽物だ」
「裏庭へ行ったら撃たれる」
と心配することになります。
つまり、読者に危険を隠しているのではありません。
むしろ、主人公より多くの情報を与えることで、サスペンスを生み出しているのです。
もしマッゴーワンの視点で描けば、彼の知らないところで進んでいた悪だくみは、事件が終わったあとに説明するしかありません。
せっかくの罠が、すべて事後報告になってしまいます。
視点とは、単に一人称か三人称かを選ぶことではありません。
読者に何を知らせ、いつ知らせるかを決める構成技術です。
危険は見せる。結果は隠す
さらにO・ヘンリは、読者が最も見たい場面を、あえて見せません。
アイキイはその夜、薬局の夜勤を担当しています。
そのため、駆け落ちの現場へ行くことができません。
読者もアイキイと一緒に、薬局で結果を待つしかありません。
父親の銃は火を噴いたのか。
マッゴーワンは撃たれたのか。
ロージィは睡眠薬を飲んでしまったのか。
危険の内容は分かっているのに、何が起きたのかだけが分からない。
読者の頭の中では、さまざまな最悪の展開が勝手に作られていきます。
サスペンスを作るには、すべてを隠せばよいわけではありません。
危険は見せる。結果は隠す。
読者が最も知りたくなったところで情報を遮断するからこそ、先を確かめずにはいられなくなるのです。
あなたの物語でも、主人公だからという理由だけで、その人物の視点を選んでいないでしょうか。
別の人物の視点に変えることで、読者に見せられる情報や、隠せる場面が変わるかもしれません。
完結編となる第3回の無料音声講義では、悪党の視点を選ぶ意味と、読者が見たい現場を隠すことでサスペンスを生み出す構成を詳しく解説しています。
▶ O・ヘンリ『アイキイの惚れ薬』第3回を聴く
ページ内の音声プレーヤーから、そのまま無料でお聴きいただけます。
また、音声講義の下では、今回とは別の名作短編から物語の構成技術を学ぶ講座、
『神々の火を盗め! 音声版』
の内容も詳しくご紹介しています。
『アイキイの惚れ薬』のような名作分析を、ファンタジー、コン・ゲーム、恋愛、恐怖、ヒーロー物語でも学んでみたい方は、講義を聴いたあと、そのままページの続きをご覧ください。
『アイキイの惚れ薬』一作を分析しただけでも、
小道具の役割を反転させる
主人公の選択を結末へつなげる
視点によって情報を制御する
読者が見たい場面を戦略的に隠す
という、複数の構成技術が見えてきました。
次回は、この全3回の学びを一つにまとめます。
そして、ファンタジー、コン・ゲーム、恋愛、恐怖、ヒーロー物語など、ほかの名作からも「面白さの仕組み」を取り出す音声講座、
『神々の火を盗め!』
についてご案内します。
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