AI時代、なぜあなたの「何気ない毎日」に価値があるのか
大人の文章のコツは距離感にある
こんにちは、ぴこ山ぴこ蔵(PIKOZO)です。
SNSで「かっこいい大人」に見られたくて、
かえって誰にも届かない文章を書いていた時期があります。
知的に見せたい。
浅く見られたくない。
でも気取りすぎにも見られたくない。
その調整をずっとしていました。
その結果、何が残ったか。
知性でもなく、誠実さでもなく、
“うまく見せたがっている感じ”だけでした。
これはかなり痛いです。
自分では丁寧に書いているつもりなのに、
読後に残るのは内容ではなく、
自意識の気配だけ。
今なら分かります。
足りなかったのは語彙力でもセンスでもなく、
自分の経験を、どんな距離感で差し出すかでした。
感情を強く出せば届くわけではない。
本音をむき出しにすれば誠実になるわけでもない。
むしろ大人の文章は、
感情を雑に扱わないことで信頼を取るのだと思います。
年齢を重ねるほど、発信は難しくなります。
若い頃のように勢いだけでは押し切れない。
かといって達観した文体を真似すると空疎になる。
誠実に書こうとすると重くなる。
軽やかに書こうとすると薄く見える。
このズレの正体は、
たいてい次の3つです。
自分の感情が近すぎる
書いている本人には切実でも、読者には温度が高すぎて入れない。体験が整理されていない
出来事はあるのに、何を受け取ればいいのかが読者に見えない。読者の入口がない
“私の話”で終わっていて、“あなたにもある話”になっていない。
つまり、
必要なのは「もっと本音を出すこと」ではなく、
自分の経験を、読者が読める形に整えることです。
そこで、ある方法を使って、さまざまな人たちに「その人だけの経験」を描き出してもらいました。
具体例を紹介します。
真夜中の灰皿
ファミレスの空気は、いつも少しだけ湿っている。 冷房の効きすぎた店内には、誰かのすすり食うラーメンの湯気や、使い古されたおしぼりの塩素の匂いが、目に見えない層をなして停滞していた。
テーブルの真ん中には、ぼってりと重たい白い陶器の灰皿が置かれている。 かつては真っ白だったはずのその肌は、無数の吸い殻に焼かれ、拭っても落ちない薄汚れが内側にこびりついていた。 高校の同級生だった彼は、細い指先でセブンスターに火をつける。 ジッポの蓋が跳ねる乾いた音と、その直後に立ち上る少し古臭い葉煙草の匂い。 彼は、窓の外の真っ暗な国道を眺めながら、お冷やのグラスを弄ぶようにして言った。
「俺、ノズのこと好きだからさ」
しれっと、という言葉はこの時のためにあるのだと思った。 まるで明日の天気や、ハンバーグの付け合わせのコーンの話でもするような口調だった。 私の喉の奥で、何かが小さく鳴った。
私はすぐさま、取り込まれないよう身構える。 彼の言葉は、柔らかい真綿のように見えて、その芯には私を別のどこかへ引き摺り込もうとする意志が潜んでいる。 そんな気がした。 テーブルを挟んで座っているのに、彼との距離が急に、何光年も離れているようにも、あるいは皮膚のすぐ裏側まで侵食されているようにも感じられた。
どういうわけか、あの時の自分は「自分」でいられなかった。
私の意識は、天井近くにある非常口の誘導灯のあたりまでふわりと浮き上がり、そこからテーブルを囲む男女を眺めている。 一人は、セブンスターの灰を丁寧に落とす男。 もう一人は、指先を揃えて自分の膝をじっと見つめている女。 その女が私であるはずなのに、私は彼女の感情をうまく拾い上げることができない。 「好き」という言葉が、ファミレスのプラスチック製のメニュー立てに当たって、カチリと音を立てて跳ね返る。
心の中の、もっとも暗くて狭い場所から、誰かの声が響いた。
(てめぇ、ざけんじゃねぇぞ!)
それは、私自身の声であって、同時に私ではない誰かの呪詛のようでもあった。 乱暴で、剥き出しで、整合性の欠片もない拒絶。 けれど、表側の私はただ静かに、灰皿の縁に刻まれた小さな欠けを指の腹でなぞっている。 陶器の冷たさが、じりじりと体温を奪っていく。
彼はもう一度煙を吐き、満足げに目を細めた。 外では、大型トラックが重低音を響かせて通り過ぎていく。 私たちは、この不自然に明るい箱の中で、お互いの正体を知らないまま、ただ並んで座っていた。
ーーーーーーーー
ノズ
団体職員
ーーーーーーーー
<作者の一言>
この方法、まだ十分に使いこなせていませんが、すごいことになりそうな予感がしています。
こんなに繊細なものが出てくるなんて!
胃の重さと新幹線の距離
先輩は、うんうん、と二度うなずいた。
愚痴というものは、言い終えたあとのほうが重い。言う前は胃の上のほうにあったものが、言葉にしてしまうと胃の底に沈んで、そこで少しだけ固まる。先輩の相槌はやさしかったし、先輩は悪くない。それでも胃は重い。胃というのは正直で、しかも意地が悪い。
テーブルの上にスマートフォンが置いてある。画面は暗い。誰からも連絡はない。連絡がないことを確認するために、人はスマートフォンを置くのかもしれない、とぼんやり思う。画面が暗いまま光らないことを、何度でも確かめられるように。
新幹線で、前の座席の背もたれだけが見えている、あの感じ。背中の持ち主の顔は知らない。でも、ずっとそこにいる。気にしないでいようとするほど気になる、あの背もたれの感じ。いまの自分とその人との距離は、たぶんそのくらいだ。人の名前は出さない。出せない、というよりは、出す必要がもうない。
あの頃、という言葉が浮かんで、しかしあの頃がいつなのか、うまく思い出せない。戻れないことだけがはっきりしていて、どこへ戻れないのかが、霧のようにぼんやりしている。戻れないと知っているのに、霧のほうへ向かって少し歩いてみたくなる夜がある。今夜がそうかどうか、まだわからない。
スマートフォンの画面は、まだ暗い。
ーーーーーーーー
作家・しげ
小説「家族の舟」公式サイト https://e-2480.com/sige/
ーーーーーーーー
<作者の一言>
このツールは、
積年のへつらいと自己欺瞞によって全く出せなくなっていた、
イノセントな部分をスルスルっと引き出してくれますね。
自分の中で未消化だった会社に対する不満が、
この生成された文章によって癒されました。
人に読んでもらうことはもちろんですが、
自分を癒したり許す手段として、活用できると思いました。
氷入りの冷たくないグラス
風呂から出たばかりの体は、まだ少しだけ自分のものではないみたいだった。
借りたタオルの柔軟剤の匂いが、肩のあたりで薄くほどけている。
湯気が抜けきらない洗面所の鏡は、私の顔を少し遅れて映していた。
居間に戻ると、後輩が冷たいコーヒーを出してくれた。
氷の入ったグラスだった。
透明な氷が三つ、四つ。
光の加減で、角がやけにきちんとして見える。
ありがとう、と言ったと思う。
言葉はちゃんと出たはずなのに、どこかで私の声だけが遅れている感じがした。
グラスを持つ。
でも、冷たくない。
おかしいな、と思う。
氷が入っているのに。
表面には水滴がついていて、その水滴は、いまにも落ちそうなほど丸くなっているのに。
指に触れても、冷たくない。
しばらく眺めていた。
水滴がゆっくり下へ流れる。
それだけのことなのに、やけに時間がかかる。
ホームレスになってすみません、と言った。
言ったあとで、言う順番が違う気がした。
その前に頼ってほしかったんだよね、と後輩は言った。
怒っているわけでもなく、慰めているわけでもない声だった。
ただ、事実を置くみたいに。
私はうなずいた。
うなずいたけれど、どの私がうなずいたのかよくわからない。
前の私とか、
その前の私とか、
そういうものは、たぶんもうないことになっている。
過去というのは、どこか遠くに置いてくるものだと思っていたけれど、
いまは違う。
過去は、現在と同じ場所にある。
ただ、触ると温度がない。
グラスの水滴が、ぽとりとテーブルに落ちた。
小さな丸い跡になった。
それを見ていると、
なぜか少しだけ、氷の冷たさを思い出した。
ーーーーーーーー
白瀬はじめ
サーキット管理人
私の時計の戻し方
智頭の森の奥、みたき園という店がある。
店というより、森の中の森だ。
茅葺きの古民家が中央に座り、その周囲に小屋がいくつか点在している。
敷地の縁を小川が流れ、水車がゆっくり回っている。
門をくぐると、砂利が足の下で小さく鳴る。
門の横の小屋の戸が開く。
中から人が出てくる。紺の着物に前掛け。袖を少したくし上げている。
「いらっしゃい」
声は低く、柔らかい。
手首だけで奥を示す。
「受付は、あちらです」
奥の小屋へ歩く。
小川の音が近くなる。水車が軋む。
受付の小屋は小さい。
戸を開けると、木の匂いがする。
帳面が置かれている。
名前を書く。
——一瞬、手が止まる。
それでも書く。
食事の時間を聞く。
「まだ少し時間がありますね」
帳面を閉じながら、その人が言う。
「よろしければ、森を歩いてきてください。喫茶もあります」
頷く。
小屋を出る。
森の道は細い。
落ち葉が乾いた音を立てる。
小川が現れる。
水は透明で、石の間を静かに流れている。
ヒュロロロ。
カジカガエルが鳴く。
少し進むと、水音が変わる。
岩の段を水が落ち、小さな滝になっている。
白い泡がほどける。
横に丸太が並んでいる。
切った椎の木。短く切られている。
表面の穴から、椎茸が顔を出している。
灰色の傘。湿った光。
さらに奥へ行くと、木の建物が見える。
ログハウス。
窓が大きく開いている。
中からコーヒーの匂いが流れてくる。
扉を押す。
木の床。
椅子がいくつか。
窓の向こうに、さっきの滝が見える。
席に座る。
「コーヒーを」
それだけ言う。
カップが運ばれてくる。
湯気が立つ。
外で水が落ち続けている。
コーヒーを一口飲む。
苦味が舌に広がる。
森の匂いと混ざる。
しばらく滝を見る。
時間がゆっくり動いている。
席を立つ。
小川の音を辿りながら、元の建物へ戻る。
茅葺きの古民家の縁側に人が立っている。
「どうぞ」
声がかかる。
中へ入る。
囲炉裏のある部屋。
木の卓が並ぶ。
山菜の料理が運ばれてくる。
皿の上に、春が並んでいる。
わらび。
ぜんまい。
山菜の天ぷら。
小さな川魚。
味付けは薄い。
口に入れると、素材の味がそのまま出てくる。
苦味。
土の匂い。
水の味。
噛むほどに広がる。
栃餅が運ばれてくる。
小さく丸い。
表面が柔らかい。
一口。
ほのかな甘さ。
栃の苦味。
餅の柔らかさ。
舌の上でゆっくり広がる。
その味が、胸の奥に落ちる。
気づくと、涙がこぼれていた。
静かに頬を落ちる。
誰も見ていない。
外では水車が回っている。
川が流れている。
箸を置く。
小さくつぶやく。
「会社、辞めよう」
少し間を置く。
「大丈夫」
外でカジカが鳴く。
ヒュロロロ。
ーーーーーーーー
鳳山詩庵
職業:殺伐とした社会で会社員として働きながら、物語を書き続けている作家。
まだ原稿料はないが、今日も机に向かっている。
note(ブログ系)
TALES(物語投稿サイト)
あの日の経験を“大人の文章“に整えるツール。
「人生を雑に見せないための5つのノォト」
ご興味がある方はこちらへ
すでに登録済みの方は こちら
