「引き算」で再活用するおとぎ話

赤いずきんは風魔の印! これぞ「引き算」の物語リブートじゃ! ふぇっふぇっふぇ!
古い物語をリブートする
愛した物語世界を、新たな風景で蘇らせる――。
リブート(再構築)は、ただの懐古ではありません。物語の生命力をもう一度世に問う、創作者にも読者にも価値のある挑戦です。
ぴこ山ぴこ蔵はこの物語再構築の手順を4つの戦略に分類してまとめました。
名付けて「リブートのための四則演算」。
その肝は登場人物の役割をしっかりと設定することにあります。
いくつかのサンプルあらすじはGoogle GEMINIの話題の新機能「Storybook」で絵本にしてみました。楽しみながらその手法を学んでください。
リブートする時の注意点
物語を再構築しようとする時、いちばん間違いやすいのが「キャラクター」の設定です。
リブートに必要なのはそのキャラクターの起こした現象なのですが、あなたがこれをうまく把握できていないと、外面的なものだけ似せることになってしまいます。
リブート時に継承すべきはキャラクターの持つ役割、つまり「行動」と「結果」の因果関係です。
登場人物のキャラクターを再現したいのであれば、「どんな人物なのか?」ではなく「物語上で何を行ったのか?」に注目してください。
ストーリーがグダグダになってしまうのは、登場人物がそれぞれの役割をきっちりこなしていないからなのです。
特に重要な役割は「対立軸」つまり「敵」です。
これさえ設定できれば、ストーリーは格段に面白くなります。
あなたの物語には強くて怖くて説得力のある「敵」が登場していますか? まずはこれをチェックしてみましょう。
物語再構築のためのポイント①
【減】~敵を引き算する
今シリーズの素材:グリム童話の「赤ずきん」
<あらすじ>
赤ずきんはお母さんにお使いを頼まれて森の向こうのおばあさんの家へと向かうが、その途中で一匹の狼に遭い、だまされて道草をする。
狼は先回りをしておばあさんの家へ行き、家にいたおばあさんを食べてしまう。そしておばあさんの姿に成り代わり、赤ずきんが来るのを待つ。
赤ずきんがおばあさんの家に到着。おばあさんに化けていた狼に赤ずきんは食べられてしまう。
満腹になった狼が寝入っていたところを通りがかった猟師が気付き、狼の腹の中から二人を助け出す。
赤ずきんは狼のお腹に石ころを詰め込む。眼が覚めた狼は逃げようとしてお腹の石の重みに潰されて死ぬ。
<抽象化した構造>
あるところに、成長と無垢を象徴する存在がありました。その存在は、知恵と経験を積むために、導く者からの指示を受けて未知の世界へと送り出されます。
未知の世界は、自然の力や未知の危険が潜む場所であり、この旅を通じて、その存在は自らの力を試されます。
旅の途中で、その存在は誘惑や危険を象徴する力と出会います。この力は巧みに言葉を操り、無垢な存在を誤った道へと導こうとします。
無垢な存在はその誘惑に乗り、初めての大きな過ちを犯します。その過ちによって、無垢さが危機に瀕し、捕らえられることになります。
しかし、最後には正義と救済を象徴する力が現れ、無垢な存在を解放し、再び安全な状態へと導きます。
この過程で、無垢な存在は大きな教訓を学び、成長と経験を得ます。
<チェック>
『赤ずきん』の物語における【狼】は「敵」であり、解決すべき問題です。
「敵」の登場しない話は、『主人公が対立軸との戦いを経て変化する』という物語の成立要件を満たしていません。それだと単なる経過報告書になってしまうのです。
「朝起きて学校や職場に行って帰ってきて寝た」という意外性のない生活記録を読まされても、カタルシスや感動を得るのは難しいでしょう。
何か非日常的な事件が起こらなければ読者はわざわざ読んでくれません。その事件を起こすのは「欠落」という現象です。今まであったものが失くなってしまうのです。
日々の暮らしや人生に必要不可欠な何かが欠落し欠如することによって、誰かが不便を感じたり、被害を受けたりするという「問題」が発生します。
その原因となるものは「敵」や「障害」や「加害者」と認識されます。
この「敵」を排除する場面がこの物語のクライマックスです。
【狼】が登場しないとなれば、主人公の対立軸を別に用意するか、あるいは対立軸のない話を作ることになります。
「私は敵なんか登場しないストーリーを書いています」という方はその作品を読み直してみてください。
はっきりと「敵」という姿になっていないかもしれませんが、そこには主人公が巻き込まれる事件や困りごとがあるはずです。
例えば「病気」や「性格」などの主人公の内面的な原因や、「貧困」や「災害」などの社会的な原因が必ずあるはずです。
その場合には、主人公の敵は「おっちょこちょいな性格」だったり、「コロナウィルス」だったりするわけです。
そういうものがないのであれば事件が起こるはずもなく、それは「異常なし」という報告であり、面白い物語とは言えません。
試しに対立軸のない話を作ってみましょう。
▼狼が登場しない『赤ずきん』の物語
↓↓↓↓↓↓↓↓↓
多少道草を食ってしまったが、無事におばあさんの家に着いた赤ずきんは、母親の言いつけどおりワインとケーキを渡して帰る。途中で猟師を見かけるが特に何も起きない。
↑↑↑↑↑↑↑↑↑
やっぱり全然面白くありませんね。
このように「対立軸」を抜いてしまうと、一般的には起伏のない、つまらない話だと感じてしまうわけです。
だからと言って、ここでまた元ネタに出てくる【狼】と同じような捕食者キャラクターを登場させたところで「新しいもの」にはなりません。
狼を虎や邪鬼やモンスターに変えたところで、どうしても既読感のある話になってしまいます。
違う物語にするためには、オリジナルとは異なるタイプの敵が必要なのです。
そうと分かれば話は簡単です。
さっそく【狼】以外のタイプの対立軸を設定しようではありませんか!
▼リブートのための四則演算
-
引き算:登場人物の削減
-
足し算:新たな要素の追加
-
掛け算:別の物語とのマッシュアップ
-
割り算:登場人物の限定(スピンオフ)
『引き算』のリブート戦略
いちばん手軽な方法として、まずは本来の敵である【狼】を物語から削除するやり方があります。
ところが、ここで注意して欲しいのは、物語に対立軸が絶対に必要な以上、キャラクターを削除しても「敵」という「役割(機能)」まで消すわけにはいかないということです。
ならばどうすればいいのでしょうか?
そこで提案です。
新たな「赤ずきんの対立軸」を、狼以外でもともと登場しているキャラクターである、おばあさん、お母さん、猟師の中から選び直しましょう。
物語の登場人物を一人減らして、元々いる誰かにその役割を振る。
これならわざわざ新しいキャラを作らずに済むので手間いらずです。
その結果が下記のサンプルです。狼の代わりに他の登場人物を「敵」に仕立て直したらこんなストーリーになりました。
・おばあさんが敵の場合:
<対立軸:赤ずきん VS おばあさん>
多少道草を食ってしまったが、無事におばあさんの家に着いた赤ずきんに、突然おばあさんが襲い掛かってくる。
実はおばあさんは数時間前に死に、ゾンビ化していたのである。
すんでのところを猟師に助けられたが、赤ずきんは腕を噛まれていた。
夕方、赤ずきんの帰りが遅いのを心配した母親が外を覗くと、森の奥から奇妙な足取りで歩いてくる子どものシルエットが見えた。
・お母さんが敵の場合:
<対立軸:赤ずきん VS お母さん>
多少道草を食ってしまったが、無事におばあさんの家に着いた赤ずきんは、母親の言いつけどおりワインとケーキを渡して帰る。
途中で赤ずきんを嫌な目つきでじろじろと見る猟師とすれ違う。
自宅に帰り着くと母親が包丁で脅して赤ずきんを檻に閉じ込める。檻の中にはすでに6人の兄妹が閉じ込められていた。
「お前たちは赤ん坊の頃にさらって来たんだよ。そろそろ全員売り飛ばしてやる」
ノックの音がした。
「ほーら、お客さんだよ、ヒッヒッヒ!」
母親がドアを開けると先ほどの猟師がライフルを構えて立っていた。
「保安官だ!未成年略取の疑いで逮捕する!」
・猟師が敵の場合:
<対立軸:赤ずきん VS 猟師>
多少道草を食ってしまったが、無事におばあさんの家に着いた赤ずきんは、母親の言いつけどおりワインとケーキを渡して帰る。
その途中で猟師が襲い掛かってくる。赤ずきんは抱きついてきた猟師の首に甘えるように腕を回し、おばあさんから護身用に渡されていた短刀で後頭部の急所を刺して倒す。
樹上に隠れてその様子を見ていたおばあさんは言った。
「さすがはくノ一の娘。赤いずきんは風魔の印。これでお主も立派な忍者じゃ!」
▲以上のように、【敵】としてどのキャラクターを選ぶかで、物語の行方はまったく違うものになります。
もう一度確認しておきましょう。
キャラクターの性格や特殊な能力、見た目などの魅力は、読者を物語世界に引き込む上で非常に大切ですが、ストーリーを作っていく段階で重要なのは、登場人物の機能(役割)なのです。
さっそくあなたの作品の登場人物の役割をチェックしてください。
なんとなくキャラクターを登場させたものの、機能が曖昧なままでは物語の視界を悪くしてしまいます。役割をしっかりと決定してあげましょう。
次回のリブート戦略は『足し算』です。お楽しみに!
すでに登録済みの方は こちら